日大アメフト危機管理 失敗の本質

歴史に残る最悪の記者会見(司会進行)と言われるであろう日大・アメフト問題の緊急記者会見。記者の司会者への「あなたの発言で日大のブランドが落ちるかもしれないんですよ」の言葉に、「落ちてもいいんです」の回答通り、日大オープンキャンパス参加者の大幅減に示されるように日大ブランドは大きく毀損したようだ。

なぜ、どこで、日大は危機管理に失敗したのか? 危機対応でやってはいけないことを繰り返し、何度もタブーを犯したケースは珍しい。技術面でのミスの指摘はすでに多くの識者が述べている。ここでは失敗の本質は何だったのか、どこがターニングポイントだったのかについて論じてみる。

今回の事例では「起こったこと(事実)は隠せない」「瞬時に情報は拡散する」ネット社会特有のリスクが顕著に示された。危険タックルを撮影した動画が瞬時にネットに流れ、次々とリツィートされる中、米国在住のスポーツジャーナリストの「ヤフー個人」への投稿(動画のリツィート付)が起爆剤となって、危険タックルは事件として拡大した。

派生リスクを想定していなかった日大?

リスク発生時に組織として最初にやるべきことは、問題発生で対応が必要になるステークホルダーを確認し、優先順位をつけて、迅速に対応することである。その際、特に留意すべきポイントがステークホルダーが何らかのアクションを起こすことで発生する二次的(派生)リスクの想定と対応準備である。

日大は関学アメフト部の動き(抗議文や記者会見)を予測していたのだろうか?関学被害学生の父親の会見、被害届提出を想定していたのだろうか?ましてや、危険タックルの実行者である自校アメフト部の学生が、唯一人会見で「監督とコーチの指示だった」と具体的に証言するとは思ってもいなかったはずだ。

それとも、学生が指示があったと証言したとしても「指示はしていない。選手の誤解、過剰反応。選手の受け止め方と乖離があった」とのロジック(言い訳)のディフェンスラインで防衛できると考えていたのだろうか? そうだとすれば防衛線の設定ミス、読み違い、危機対策の基本ラインの失敗である。

人は重大事態に遭遇した時、希望的、楽観的に状況を予測しがちになる。「そんなに状況は悪くならない、このままで大丈夫」と甘く見てしまう。変化(行動)よりも現状維持の方向に気持ちが傾いてしまう「現状維持バイアス」が働いてしまう。多くの危機管理の失敗は現状維持バイアスによるリスク評価ミスと、危機対応失敗の連鎖によりスパイラル的転落の流れの中でダメージを拡大させてしまっている。

記者会見の開催数は危機管理の成功・失敗のバロメーターである。日大アメフト問題で記者会見を実施した組織(個人)数と会見数は両手に余る。会見した組織は日大をはじめ、関学アメフト部、被害学生父、加害学生、関東アメフト連盟、日大教職員、日大アメフト部父兄会、スポーツ庁長官、第三者調査委員会と、同一問題でこれだけ多くのステークホルダーが会見した事例は過分にして聞かない。しかも、会見数は当事者の日大よりも外部のステークホルダーの方がはるかに多い。当然、会見が開かれるごとにメディアとネットで話題となり、さらに拡散していく。ステークホルダーのリアクション(派生リスク)の影響がいかに大きいかは一目瞭然である。

危機対応の失敗で構図が変化

この問題は初期は「関学アメフト部対日大アメフト部」のアメフト部同士の構図であった。しかし、この段階で日大サイドの謝罪の遅さと監督が事実を明らかにしない説明責任の欠如によって、事態は悪化する。こうした状況下、加害者側の日大学生の反乱が起こってしまう。日大学生は被害者への謝罪を大学側から止められ、「(言った通りにすれば)一生、面倒をみる」というアメとムチの仕打ちを受ける。被害者の警察への被害届提出で、刑事罰の恐れが出てくる中「スケープゴートにはならない」との決断が、学生を唯一人での記者会見へと向かわせる。日大学生のこの反乱が日大アメフト問題のターニングポイントになった。

ここでアメフト部同士の構図が「加害者学生対日大」へと変化する。この構図は直ちに「社会(世論)対組織としての日大」へと変換することになる。構図の変化は、組織としての日大のガバナンスが問われる局面に入ったことを意味する。この構図の変化をもたらした要素は日大の派生リスク予測の失敗をベースに相次ぐ危機対応のミスである。失敗の連鎖が事態を一層悪化させ、部同士の炎上を大学全体に延焼させ、さらにガバナンス問題の全焼へと拡大させた。自爆ともいえるミスの連鎖が構図を変えたのである。

日大の誤算はどこにあったのか?

コミュニケーション戦略の基本はターゲット設定とキーメッセージを決して間違えないことだ。日大の会見では勿論、ターゲットとして被害者、関係先、追い込んでしまった加害者学生、社会全体が謝罪の相手に入っている。しかし、本音では本当に伝えたいターゲットは日大内部であった。理事長のHPの謝罪文の「教職員の皆様もわたしの決意を受け止め、行動していただきたい」、学長の会見コメント「本学は12万人の規模…。私一人で全部回ることはできない。そんなことも含めて…会見した」、監督・コーチの会見コメント「日大の皆さんに迷惑をかけた」との三者のコメントに日大内部しか視野にないことが象徴されている。

さらに、もっと決定的な問題は、日大の加害学生への責任押しつけである。一人で会見させたことへの大学としての責任を認め、学生ファーストの精神を声高に唱えてはいるが、全体の流れが示しているのは学生をスケープゴートに大学は逃げるという意図が透けて見える点である。

学生ファーストの精神は教育機関としてのミッションに通じるものである。しかし、大学の行為はこれを否定しているように映る。それは教育機関としての存在自体を否定することとイコールである。「誤解を招いたとすれば言葉足らずだった」というフレーズ(ロジック)自体が日大のディフェンスラインであったことは日大の学生ファーストの精神は信用できないという重大な帰結を導き出す。そもそもこのフレーズは炎上時に絶対に言ってはいけないネガティブワードである。ネガティブワードを危機管理の最終防衛線(ディフェンスライン)にするという判断が日大の危機管理の失敗を象徴している。

<日大アメフト問題経緯>

5月06日 危険タックルで負傷退場(日大vs関学)
19日 監督が負傷した関学選手に謝罪、空港での囲み取材で辞任を表明。
22日 日大選手が会見。監督らの指示を証言
23日 日大緊急会見(監督・コーチが指示否定)
25日 日大学長会見
6月01日 前監督の常務理事辞任発表(5月30日付)
第三者委員会設置発表(文科省で囲み取材)
29日 第三者委員会中間報告発表・会見
7月30日 第三者委員会最終報告書発表
8月03日 日大理事長HPで謝罪

 

篠崎良一

篠崎良一

共同PR(株)入社以来、危機管理広報コンサルティング、危機管理広報研修を担当。
リコール、企業不祥事、内部告発など数多くの危機管理実務、コンサルティングを実施しています。
著書に『実戦企業広報マニュアル』、『会社を守る!もしものときのメディア対応策』(共にインデックス・コミュニケーションズ)『広報・PR概論』(共著、同友館)『広報・ 『広報・PR実務』(監修、同友館)。
日本広報学会会員、(社)日本PR協会認定資格『PRプランナー』試験委員。