三菱自動車の三度目の不祥事

三菱自動車の燃費データ偽装のニュースを聞いた人の感想には「また、やったのか」「これで本当に信用はなしになった」はまだしも、「三度目の再建はとても厳しい」「もはやこれまで。もう三菱自動車はいらない」「どこかのまともな会社に買われるべき」といった見放した見方が多かった。

二昔前、衝動買いした三菱の中古の軽は、真夏の渋滞した高速道路でクーラーが原因でエンストしたことはあったが、廃車にするまで故障もなしによく走ったいい車だった。

すでに周知のとおり、日産の傘下入りの発表で三菱自動車の不祥事問題は一件落着とのムードが漂っている。たしかにこの不祥事への社会的関心は前の2回に比べて極端に低い。通常、こうした不祥事発覚時の報道はまず何が起こったかの事実を追う流れで始まり、次に具体的な不正、隠ぺいの手口の解明、そしてなぜ不正、隠ぺいが行われたかの原因究明がメディア間のスクープ競争と並行して明らかになっていく。後半では、被害者への補償と法的分野も含めた責任追求、財務的ダメージ拡大にともなって浮上する企業の存続問題といった流れが報道のメインフレームになる。メディア報道はこうした流れに沿ってはいるが、受け手も取材サイドの記者自身もさして高い関心を持って事件に接しているとは見えない。人は、何かしら謎を解くことに強く引きつけられる。三度目の三菱自動車の不祥事にはこの謎解きの魔力がない。つまり、なぜこうした不正と隠蔽が行われたかの根本原因に「おおよその察し」がついているからだ。

2000年、2004年、そして今回と三度の三菱自動車の不祥事の共通項は、三回とも発覚の契機が外部によるものであることだ。2000年は内部告発、二度目の2004年は捜査機関による摘発である。二度にわたり第三者委員会の厳しい検証を経てコンプライアンス体制を整備した。しかし、社内の自浄機能が働くことはなかった。なぜ一度ならず二度も内部統制とコンプライアンスが機能しなかったのか。当然、機能不全には理由がある。

「見て見ぬふりをした人がいるはず」「薄々知っている人はいるはず」「誰かは不正に気づいたはず」「組織的な隠ぺいがなければ隠せないはず」。誰もが考えるこうした「・・・のはず」といった素朴な意見は意外と正しい。

どのメディアも指摘する不祥事の原因が「不正体質」「企業文化の問題」「変わらない隠ぺい体質」「内向きの行動様式」といった企業体質である。言葉で表現すれば結局ワンワードの「企業文化」の問題に帰結するが、重要なのはこの帰結がどこから生まれてきたかである。

最も本質的な三度の三菱自動車の不祥事の遠因は「三菱自動車は潰れない」という社内の心理に行きつく。1970年に分離独立した三菱自動車にはすでに三菱という確立された強固なブランドがあった。自から苦労して時間をかけて育てることなく、タダで利用してこられたことで、そもそも厳しさが欠けていた。どこかおかしいと感じても声をあげない身内の論理が浸みついていたのではないか。

ある全国紙コラムに「三菱の名のついた企業が潰れるはずがないとの社内の声があった」との記述がある。企業は時代の変化に適応できなかったり、不祥事や危機への対応を誤れば潰れるものだというトップも含めた社員のリスク意識こそが、企業の存続を担保し、会社を危機から守るのである。

 

 

 

2000年の雪印乳業食中毒事件の1年後に発覚した牛肉偽装事件では、東証2部上場の子会社・雪印食品は1月の発覚後、4月には会社は廃業・解散し、完全に消滅、2000名の社員・パート全員が職を失った。健康被害が全くないBSE対策費を悪用した補助金搾取事件で上場企業が簡単に潰れる時代になってすでに15年が経過した。

雪印乳業は1995年にも集団食中毒事故を起こしている。事故後、当時の社長は「信用を得るには永年の歳月を要するが、これを失墜するのは実に一瞬である。かくして信用は金銭で買うことはできない」との「全社員に告ぐ」の文章を起草し、一度は再生を果たしている。

「信用」は企業の存在意義を示したともいえる企業理念によって支えられる。三菱自動車の企業理念には「大切なお客様と社会のために…確かな安全を…提供し続けます」とある。そのために「顧客第一主義に徹します」と続く。

「会社は潰れるものだ」というリスク意識とトップからパート・アルバイトまでの全ての社員への企業理念の浸透と定着こそが、危機管理で最も根源的に必要とされるものであることを示したのが三菱自動車の三度目の不祥事であった。

篠崎良一

篠崎良一

共同PR(株)入社以来、危機管理広報コンサルティング、危機管理広報研修を担当。
リコール、企業不祥事、内部告発など数多くの危機管理実務、コンサルティングを実施しています。
著書に『実戦企業広報マニュアル』、『会社を守る!もしものときのメディア対応策』(共にインデックス・コミュニケーションズ)『広報・PR概論』(共著、同友館)『広報・ 『広報・PR実務』(監修、同友館)。
日本広報学会会員、(社)日本PR協会認定資格『PRプランナー』試験委員。