先日、PRのお手伝いをしているある企業のストーリーをまとめるとき、編集メンバーで「夫婦の呼称」議論になりました。最初の原稿では「ご主人がxxx、そして奥様がxxx」という表現だったのでわたしは「夫、妻」への修正を提案しました。編集メンバーは男女半々、全員既婚者で、ジェンダー平等観点からは「夫、妻」が正しいだろうという指摘には異論がなかったのです。
とはいえ、エモーショナルなストーリーの中で主人公の伴侶を「xxの夫」「xxの妻」と描写するのはドライ過ぎないか。敬称を欠く、失礼な語感が無いか、誰もがモヤモヤしました。その結果、ブランドチームと協力し、主語と述語、語順を巧みに入れ替えることで、ジェンダーに配慮した表現に仕上がり、わたしは思わずリモートワークの画面越しに拍手しました。逆に言えば、言葉選びを誤り、発信者の思いが相手に伝わらなければ、せっかくの珠玉のストーリーも曲解され価値を失ってしまうのです。
PRを通じたダイバーシティ&インクルージョンの推進は、今のPR総研におけるSDGs/ESG推進の研究職を兼務するようになってからずっと自分自身の核にあります。その理由は2つ。ひとつは、出産と新生児育児という体力的な負荷が大きかった時期に、キャリアを諦めたくないという焦りと、子どもを守ろうとする防衛本能の狭間で、感情が崩壊して日常生活の継続が難しくなったこと。つまりは、自分自身が社会不適合の烙印を押され、そんな人が無数に存在することに気づき、守らなければならないと使命を感じたのです。
もうひとつは、自分とジェンダーが異なる男児が生まれ、明らかに女児とは違う点を目の当たりにし、しかしいったいどうやったらオールインクルーシブな環境を作れるのだろう、という未来への思いが生まれたからです。ダイバーシティ&インクルージョンがなければ、世の中は変わらない、イノベーションは生まれないのは明らかなのです。
日本経済新聞と日経BPが、日本社会の多様性を阻むステレオタイプを撲滅するために日経ウーマンエンパワーメントプロジェクトの一環として出版した、 「早く絶版になってほしい #駄言辞典(日経BP)」には、「女はビジネスに向かない」といった思い込みによる発言を指しています。日本特有なのは、特にジェンダーに基づくものが多いことです。調査報道としても先鋭的で、社会構造や歴史的観点の分析も、識者の未来志向の示唆も、極めて鋭い。駄言を言わないためのアプローチ、駄言の対処法、駄言を繰り返さない方法までもが、精緻な根拠とともに描かれています。
それを企業がどう実践すべきか。広報の学校「オンライン 新D&I広報入門/マーケティング、広告、 キャンペーン戦略とPR実務 」(アーカイブ配信 申込締切:8月17日、 開催:8月20日(金)~9月21日(火))にて紹介しています。
駄言は、相手の能力や個性を考えずに発せられるステレオタイプな言葉です。言った当人には悪気がないことも多い。親が子に、上司が部下に、良かれと思って「時代錯誤な」配慮で言われることも多いのです。
多くの男性管理職にはあからさまに敬遠される「D&I」ですが、適合していかなければ企業は生き残れません。D&Iは人間がひとりひとり人間らしく生き、地球と次世代の成長を促進するステップなのです。
だれもが自分らしく、公平に幸せに生きられるように。そのためにD&Iはもちろん、SDGs、ESGといった社会的枠組みができ、世の中は変わっています。PR会社だから貢献できる、社会正義のためのコミュニケーションを絶えることなく続けていく日々です。
関連記事: ダイバーシティは社会のイノベーター。男だ、女だ、ぐだぐだ言うのを止めてゴールに進め。:日経xwoman Terrace