コロナで変革を遂げるグローバルPRの現場から、前回に続き IABC Catalystへの寄稿をもとにした日本独自コンテンツ4回シリーズの第2回。今回は、 「オンライン会見の実践策」としてスピーカー、PRチームそれぞれの施策を取り上げます。
会見は登壇者と記者が向き合える場づくり
オンラインで登壇するスピーカーと記者の対話を成功させるには、2つの重要な要素があります。ひとつは、スピーカーが専門性と同時に「人間味ある話しかけ」をすること。これは、「サピエントリーダーシップ」と言われるコロナ禍において特に重視される資質です。もうひとつは、 PRチームが画面の向こうにいる 記者やアナリストを個々に支援し、「必要なサポートのための声かけや先回り」を徹底することです。こうしたわずかな疎外感も取り除く努力が、イベントを安心して参加、取材してもらえるインクルーシブなものにします。
グローバルPRならではの注意点も2つあります。ひとつ目は、スピーカーになるべくゆっくりと話してもらうことです。その際、表情の豊かさも大事です。なぜなら、日本の日常とは遠い海外情報やグローバルメッセージを伝える特質上、しっかりと日本市場に向きあった人間の声でなければ伝わらないからです。それには例えば、発表内容やファクトに温かさを加えられるよう、ちょっとした個人的な話を小ネタとして準備してもらうと効果的です。
さらにはスピーカーが英語の場合は、日本の参加者が疎外感を感じないようにする配慮が必要です。通訳のための時間と予算を確保し、スピーカーが通訳と歩調を合わせて発表内容を最大限伝えられるようにPRマネージャーが伴走、つまりコーチングする必要があります。 また、日本語では人の名前の後に「さん」をつけるように伝えるのも、雰囲気づくりのポイントです。英語であっても、いや英語だからこそ、スピーカーが「さん」付けで話すと親しみやすくなり、逆に「さん」がないと日本を理解していない、失礼な態度をとっているようにも聞こえてしまいます。
ふたつ目は、記者の執筆はもちろんソーシャルメディアなどでのコメントに注目することです。例えば昨年2020年に開催されたオンラインメディアイベントでは、多くの記者が「高解像度の写真が撮れないのはつらい」とコメントしていました。そこで共同ピーアールでは、登壇者用のリングライトを購入したり、スクリーンショット業務の専任スタッフを配置したりして対応しました。記者のセンチメントを理解して、参加や取材する際の思考、視点、感覚、ニーズを捉えることが報道を支えるうえで重要なのです。
運営上のテクニカルな要件とアプローチ
前回触れた Zoom、Microsoft Teams、YouTube Liveなどの動画プラットフォーム上でのオンラインイベントでは、ホストがスピーガ―以外の参加者の音を消し、登壇内容が聞こえスライドが見えるように運営しなければなりません。いずれのプラットフォームも細かな機能が多いうえにクラウド上で変更されるため、習熟するには リハーサルと場数による慣れが必要です。
コロナ下、日本のオンライン会見ならではの課題は、Q&A時の沈黙です。どの記者も日々、膨大な数、実施されるオンライン取材疲れで、あまり知らない会社や内容の発表に対してなかなか質問が出ないのです。対面時のように名刺交換の時間、いわゆるぶらさがりの間合いが取れずに、距離を縮めることが難しい。
とはいえ、登壇者がスクリーンの前にいるオンラインでの沈黙は参加者にとっても気まずく、居心地の良いものではありません。これを避けるためには、司会者がスピーカーに要点や要約を問いかけたり、コメントをもらったりすることで、場の雰囲気を和ませることができます。また、あらかじめいくつかの質問を用意しておき、司会から登壇者への回答を促すとよいでしょう。
日本では、オンライイベントの時間設定がかつてより短くなっています。厳密にいうと以前は1時間区切りだったイベントが、ログインのための予備時間および休憩を考慮して50分が標準的になっているのです。なおこの50分には、通訳の時間も含まれるため、逐語通訳を通すと登壇時間は実質半分になります。例えば、スピーカーの登壇が20分、逐語通訳に20分、残りの10分が質疑応答というように時間配分します。
こうしたオンライン会見では、写真撮影の代わりに、スクリーンショットの時間を設け、終了後に録画とともに参加者に 提供することをお勧めします。登壇者のスクリーンショットは、記事の印象を左右するため、なるべく鮮明でその人らしい表情があるものを提供すると良いでしょう。これらのデータは、イベントの振り返り資料として執筆に役立ててもらえるだけでなく、欠席した記者への包括的なアプローチにも活用できます。
次回は、PRにおける事業継続とリスク管理をお伝えします。
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原文: Innovation in Global PR to Overcome the Pandemic