広がり複雑化し続けるPR領域を、どう捉え、革新するか―。共同ピーアールではSAPジャパン協力のもとデザインシンキング・ファシリテーターとしてエデュケーション本部長(※)小塩 淳氏を講師に迎え「SAP デザイン思考 特別ワークショップ」を開催しました。本ワークショップはB2Bファシリテータ飯室淳史氏の取り組みに賛同し、起案したものです。 ※開催当時
なぜデザイン思考か
企業環境の変化が早く、生き残りのし烈さが増すシリコンバレーでは、新しいアイディアを引き出す「デザイン思考」の手法が、ビジネスのイノベーションに有効であることが過去15年以上にわたり実証されています。SAPは、創始者のハッソ・プラットナーがスタンフォード大学内にデザイン思考のためのd.schoolを設立して以来、デザイン思考の発展に投資し続けています。そこで共同ピーアールは、PRのイノベーションを目指し、社内外の多様なPRメンバーとともに、SAPのデザイン思考ノウハウを生かしたワークショップを実施しました。
100年のPRから未来創りへ
デザイン思考の要である「プロトタイプ(模型)作り」の基礎を濃縮した本ワークショップでは、まず約20人の参加者全員が事前準備に取り組みました。「PRとはなにか」について、読書を通して基本の共通認識を持ちました。また運営側は、事前に参加メンバーのタイプを把握し、バランスを考えた4グループのチーム分けを行い、会場は文具をふんだんに用意し動きやすく配置、キャンディーやスナックなどを準備して、フレッシュな気持ち、思考でワークショップを続ける環境づくりをしました。
冒頭まず筆者上瀧から、「PRとはなにか」について概要を説明しました。パブリックリレーションズ(PR)、日本語の広報は、古くは100年前から、メディア(情報・報道媒体)の発展とともに拡大し続けています。そのはじまりは、報道機関への情報提供(メディア・リレーションズ※)によって記事(パブリシティ)を獲得し、社会(パブリック)との関係構築を推進する「実務」であり、時代の変遷とともに理論的に体系立て概念化されてきました。※共同ピーアールの商標登録
PRは、根底に世論に基づく民主主義があり、報道倫理(ジャーナリズム)と連動します。日本にPRが導入されたのは、第二次世界大戦の終了後です。連合国軍総司令部(GHQ)が民主主義浸透のためにPRの理念を指導するうえで、政治上のプロパガンダ(布教、大衆操作、宣伝)や広告と切り分けて、“広報”と訳したのが起点といわれています。
しかしこの10年ほどで、スマートフォンやSNSの利用拡大に伴い、かつての広告とPRの境が無くなってきてなっています。媒体における「汽水域」と呼ばれる、広告と広報の境目領域が拡大しています。デジタルメディアで読まれるための施策として広告をPRツールとして使うようになり、PRの解釈が広がっているのです。
具体的には、ネイティブ広告(デジタルメディア上で記事コンテンツと同じ体裁を持つ広告)を示す推奨規定として、広告を[PR]と表記する例が増えています。また、省庁や地方自治体が自らの魅力を語る映像は「PR動画」、地域や企業の特性を形にしたゆるきゃらなどは「PRキャラクター」と呼ばれています。
同時に、メディアの定義も、報道媒体に加え、キャラクターやマスコット、人(インフルエンサー)まで含むよう拡大してきています。
これは是か非か。報道倫理、情報価値、経済活動の透明性などに死角はないのか。Fake News、Deep Fakeの巧妙化にどう立ち向かうのか。これまでの組織は、PRパーソンは、どうしたら生き残っていけるのか…?
変化には常に様々な課題が伴います。デザイン思考で解決のプロトタイプを作る一日の始まりに、「PRの目的から考えよう。決してメニューやツール選びのディスカッションではなく、なぜPRが必要なのか、未来を創るワークショップを」と問いかけました。
スマホ、PCは禁止、必要なのは“楽しむこと”
次に、小塩氏から、デザイン思考の概要とワークショップの流れについて説明。今回のデザイン思考は、空気づくり(アイスブレーク)、課題の定義(スコーピング)、訴求する対象(ペルソナ)の把握、アイディア創出、プロトタイプ作りが基本です。そして議論、ブレインストーミングをするうえで必要なのは、「否定しない」「判断は後回し」「自由なアイディア歓迎」の心構え、と訴えました。
さらに「イノベーティブを生むディスカッションをするうえで、最も重要なことは“楽しむこと”」という柔和な小塩氏の笑顔に、参加者の緊張がほぐれました。
ここからは議論に集中するために、スマートフォンもPCも禁止、外部の情報を遮断し、時間厳守です。まず各チーム、各人が、付箋に自分の似顔絵、仕事、プライベートなどを書いて自己紹介し、笑いが出てきてアイスブレーク。
次に、それぞれが課題として思いつく言葉を次々に付箋に書き込み、壁に貼って分類し、情報を可視化、体系化していきました。時間に追い立てられながら考え、瞬時に手を動かし判断していく作業です。そして各チームの発表を聞き、発想の幅の広さ、個性の違いを発見して盛り上がります。様々な発言を受け入れる傾聴の姿勢がワークショップを加熱して、さらに賑やかになっていきます。
参加者が悩んだのは具体的なペルソナ、つまりイノベーションが起きた時にハッピーになる人の像を特定することです。このペルソナ作りにより、社会の環境や課題、世代ギャップ、コミュニケーションの壁が見え、思考が広がっていきました。グループごとにペルソナの生活が鮮やかに見えるようになります。
さらに大量の付箋を使って、ペルソナの変革の行程、カスタマ―ジャーニーマップを、現状(アズ・イズ)から理想(トゥー・ビー)になるよう段階的に描いていきます。その人の個性、朝から夜までの行動と情報接接触、悩みに沿うようにアクションと気持ちを書き出し、整理していくのです。考えたこともなかった仮想の人間に矛盾が生じないよう、幸せになるように行動とストーリーを作る作業は、膨大な熱量が必要ですが、楽しくて笑いが絶えません。
最終的には、各チームがアイディアを形にするプロトタイプを発表します。発表順に、
- 21歳・男性・大学生向け、企業と学生をつなぐライフスタイルデザインのサービス
- 54歳・男性会社員・広報担当者向け、有志をつなぐ世論形成の社会広報ITプラットフォーム
- 24歳・女性・会社員向け、社会貢献志望者を企業広報とつなげるバーチャルシステム
- 45歳・男性・大企業部長向け、広報主導のコミュニティカフェテリア
がプレゼンテーションされました。そして、2番目に寸劇を交えて爆笑を誘うプレゼンテーションをしたITプラットフォームのプロトタイプが最優秀として、運営側から表彰されました。
広報の学校 学校長、PR総研 主席研究員の篠崎 良一からは、コミュニティカフェテリアの実例として、大阪のヤンマー社の社食開放の解説がありました。
大騒ぎ、大笑いしながらあっという間にワークショップを終え、最後にひとりひとりが、よかったこと(アイ・ライク)と見直すこと(アイ・ウィッシュ)を発表して盛況のうちに終了しました。参加者からは、「自社の広報の課題が見えた」「社会貢献の可能性が大きい」「実践したい」といった声が次々と上がりました。
※共同ピーアールはSAPジャパンの広報活動を支援しています。本ワークショップは有志活動です。B2Bファシリテータ飯室淳史氏の取り組みに賛同し、起案しました。#KyodoSAPDT