世界経済フォーラム(WEF)が1月にオンライン開催したダボス・アジェンダは、普遍的かつ客観的な「ステークホルダー資本主義指標」を報告に取り組むことを誓約しました。これは企業による環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)側面の取り組みを促すESG投資を後押しするものです。これと並行し、企業が本業を通じた社会課題の解決、イノベーションを実現し、長期的な利益も生むSDGs経営が広がっています。PR総研が推進するこうした取り組みは、ややもすると「自分には遠い」「口だけ」と思われがち。過去から未来を展望すべく、トークンエクスプレス 代表取締役 紺野貴嗣氏を取材しました。
「新しい資本主義」への長い戦い
まずは現状分析。 1970~80年代から生活困窮層、つまり女性に対し少額融資と自立支援を行うグラミン銀行の活動が活発化しています。バングラデシュ発、ノーベル平和賞にもつながったこの世界的なマイクロファイナンス機関は、国内組織として2017年に一般社団法人グラミン日本が設立。今年2月にはSAPジャパンとともに、デジタルプラットフォームを使い雇用機会のニーズをマッチングさせる就労支援の連携協定を締結しています。
50年前からのステークホルダー資本主義、2000年の国連サミットで合意されたMDGsの後継となるSDGs、15年来のESG。長きにわたるこうしたキーワードをめぐって、世界のリーダーとグローバル企業が中心となって推進するのは、企業による短期的利益の過剰な追求からの脱却です。大きな方向性はいずれも同じですが、数値化による世界共通の基準を設けて、社会のあらゆる事象を測り切るのが難しいのも現実。こうした理想と現実を埋めるには、目の前にあるアルゴリズムに止まらない人間の思い、情熱、知恵が不可欠です。
「社会的価値」を基軸に企業向けサービスを提供する起業家、紺野氏は起業前、2009年に入構した独立行政法人国際協力機構(JICA)にてエジプトのマイクロファイナンス産業の拡大に貢献しました。その時に出会った、社会貢献と事業の持続的拡大の両立を実現する心ある経営者に触れ、職業観ひいては人生観が変わったと話します。誠実かつ精力的なマイクロファイナンス事業のファウンダーに触発され、自身もトークンエクスプレス株式会社を起業します。
「ビジネス」と「社会的価値」の懸け橋
トークンエクスプレスの事業ドメインは、コンサルティングとメディア運営が中心です。社会的価値の中でも収益につながる事業を育て、必要に応じて融資や投資家とつなぎ、企業の収益につなげることを任務としています。
そもそもなぜビジネスの核に「社会的価値」を据えるのか。それは『一般に「社会に良いことをする」と「おカネを稼ぐ」が分断しているから』と紺野氏は指摘します。だからこそ、これらを一気通貫で捉えられるかという経営者の覚悟により、成否が左右されるのです。
「社会的価値の事業化には2種類ある」と言います。ひとつは、既にある価値を言語化、顕在化し収益につなげるものが1つ。もうひとつはベンチャーキャピタルの視点で、芽吹いている価値を磨き事業につなげるものです。社会的価値も多様な捉え方がある中、トークンエクスプレスは企業が対面する1対1を超えたお客様の先にまでバリューを届けるビジネスに注力しています。
トークンエクスプレスが社会的価値とビジネス上の利益を両立させているビジネスモデルとして挙げるのが上述のマイクロファイナンス事業です。「マイクロファイナンスはおカネそのものを扱うため分かりやすく、キャッシュを回収しやすく、数字で把握しやすい。世界のインパクト投資家の4分の3が投資するビジネスモデル」と解説します。
海外支援と日本国内 ~ ギブの精神の拡大
ではマイクロファイナンス同様にグローバル視点で社会的価値と資金の好循環を生めば、国内でも女性の相対的貧困の解消にもつながるのでしょうか。紺野氏は「解決策には何レイヤーかある」と分析します。まず公的資金を投入すべき医療、教育などが優先事項。次に慈善事業、財団などによる財源の配分。そこにビジネスによる支援というレイヤーが重なることで、課題解決のアプローチを具体化することができるのです。
その他トークンエクスプレスが手がけるビジネスには、人の行動をオンライン上で追跡しユーザーの行動変容を計測するビジネス設計、EC上でコアのファンによる収益化を確立するファン化マーケティング、BtoBビジネスで「顧客のその先」のペルソナを考えるマーケティング戦略、などのモデルがあります。成功に必要不可欠なのは、「まず着手時に、時期、効果、セグメント、成功指標などを細かく詰めること」と語ります。
コロナと共に何が変わったのか。「ギブの精神が拡大した、これがESG、SDG推進に拍車をかけている」と紺野氏は見ています。さらに、「オンラインホワイトボードのMiro、音声SNSのClubhouseのように、これまでの対面以上のことがオンラインでリアルタイムに生み出せるようになっている」と言い、社会的価値につながるビジネス環境の拡大に期待を寄せます。
「インパクト投資が雰囲気からリアルへと大きく動いている」「これまでのシリコンバレー型スタートアップ、ベンチャーキャピタルのみをもてはやす時代は過ぎ、特に環境への意識が高まっている」と語り、紺野氏は、社会課題とビジネスの融合による商機に意欲を見せました。
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