海外PR、テクノロジーPRなど、専門性が高いPR畑では「実績」「事例」が頼りになります。しかし最大の武器になるのは、「場数」です。わたしがIT企業広報からPR会社に転職して、一番悩んだのも、この場数不足からくる判断力の不確かさでした。だからコッソリ(笑)、コツをお伝えします!
PR会社のピッチは頭脳ゲーム
PR会社として必要な場数の典型は、クライアント向けの「ピッチ」と呼ばれる新規案件獲得のためのプレゼンテーションです。あの、野球のマウンドで球を投げるピッチャーのように、仕事を勝ち取るために提案を投げ込む場がピッチ、です。
通常、2週間ほどかけてクライアント候補となる企業、業界について調査研究し、どうしたらよりよいPR展開が可能になるか、戦略と活動を提案します。
ピッチの成功は、新規受注、つまりレベニューストリーム(収益源)が増えることと同時に、新しいチームの誕生を意味します。だからこそピッチでは、その提案内容はもちろん、チームの相性を表す「伝え方」も同じくらい大切です。
なぜなら、与えられる時間は通常わずか1時間ほど。今般の新型コロナウイルス対策しかり、場合によっては対面できずにビデオや電話での会議になる、というコミュニケーションバリア(伝達障壁)があるからです。短時間で日本の現状分析を伝え、相手の理解を培い、質問を引き出し、よりよい戦略・戦術について議論しなければならないのです。
信頼、実績は刺身のツマ
例えば「共同ピーアールが、グローバルIT企業の広報を、日本でどう支援できるか (How Kyodo Public Relations can support global IT brand to run PR in Japan)」という潜在顧客企業とのディスカッションをする場合を考えましょう。
まず自己紹介として「55年の歴史 (55 years of history)」「20年以上のキャリアを持つ専属チーム (Dedicated team bringing over 20 years of careers)」などのファクトを伝えると、まず安心してもらえます。ただしそれらは、いわば刺身のツマのようなもの。大切なのは、建前や能書きではなく、クライアントの立場にたってシミュレーションしながら話すことです。
なぜなら、こうしたPR会議の目的は、短期的な契約先を見つけることではないからです。本来は、どうしたら中長期的にクライアント企業の悩みを見つけ、解決するかを、一緒に考えることが会議の目的なのです。ピッチは説得の場ではなく、互いの理解の場なのです。
そのためには、例えばバックアップ、セキュリティ、クラウドなど特定分野の事例を交えて、各論を話します。そして相手の話を聞き「それいい (That sounds great)」「その話すてき (I like that)」「それはちょっと (Maybe not)」など相槌を打ちながら、徹底的に話し込みます。
「May we?」と聞けば日本語を使ってもOK?
日本語のほうがよい相手がいたら、そこは場合によって「May we talk in Japanese (日本語で話しても構いませんか?)」等と聞いてもかまいません。日本の媒体名、人名などは聞いても海外の人にはわからないので、日本語で話すほうが手っ取り早いこともままあるからです。
こうすることで同時に、クライアントチームの日本語の受け入れ度合いも確認できます。これは、チーム構成のスタッフィング、つまりメンバーに英語を話さない人間をどの程度入れられるかの判断に役立ちます。
ただしその場合、日本語がわからない人に「阻害された…」と誤解されないように、手短に何を話したか必ず伝えましょう。「日本語で失礼しました、いま、日本でのメディア対応について話したところです (Sorry that was in Japanese. We just talked about how to speak with local media in Japan.)」と言ったフォローがあるとよいでしょう。
初めてのピッチは誰にとっても不安です。しかし場数を重ねると、確実に楽しくなります。だって、海外の人が真剣に自分たちの話を聞いて、よくなるために一緒に働こう、といってくれるんですよ!人類愛を感じます。
あなたもぜひ、こんな時だからこそ恐がらずにピッチに参加してください!
写真:共同PR「書いてスッキリする!」ブログワークショップ
~ライター・ナツメ(夏目幸明)氏と一緒に書こう!~
撮影 高木 亮太