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イノベーションを加速するMAINモデル~早稲田大学大学院 川上智子氏教授、ワールドマーケティングサミット2019(上)

ワールドマーケティングサミット東京2019 最後の講演は、早稲田大学大学院 経営管理研究科教授 川上智子氏の「日本発のマーケティングによる価値創造とイノベーション」。事例をもとに、 破壊的イノベーション (Disruptive Innovation)と非破壊的イノベーション (Non-disruptive Innovation) を分析しました。

川上氏は、ビジネススクールの教授以外にもマーケティング国際研究所 所長、早稲田ブルー・オーシャン・シフト研究所 副所長、宝ホールディングス 社外取締役、学術誌 The Journal of Product Innovation Management の編集委員といった幅広い任務に着任。2017年アジアのトップリサーチャー100人の1人に選出されています。

そうそうたる経歴に「あまり知られていないので、自分で言うようにしています」と言い添え、場を和ませました。

ユーザー依存の破壊的イノベーション

まず破壊的イノベーションを紹介。その例として、電子書籍端末(リーダー)を取り上げ、普及の成否を別ける外部要因、”ネットワークの外部性”に関する日米比較に触れました。その論文を7分にまとめたYouTube動画を再生し「今どきの研究者はビデオクリエイター」と笑いを取りました。

ビデオゲームにはソフトが必要であると同様に、電子書籍リーダーにもコンテンツが必要です。ユーザーを増やすための補完品が存在するか否かで、総合的な利用者の数が決まり、それにより製品の価値や浸透度が決まります。

電子書籍リーダーの場合、アメリカではこの外部要因がプラスに働き、ベストセラーコンテンツを網羅するまでに浸透。一方で日本はマイナス要因となり、一部のマンガ、参考書程度に止まります。川上氏の論文ではその理由を、業界関係者20人の取材をもとに分析しました。

以上、日本市場で電子書籍リーダーは、組織、技術、環境からなる間接的な”ネットワークの外部性”により、普及が阻まれています。これについて川上氏は「日本に足りないのはマーケティングです」と断言しました。

“価値”と”文脈”を作るマーケティング

改めて、マーケティングとは「市場のダイナミズムを管理すること」と定義。さらに踏み込んで、製品の機能・情緒を高め、価値あると認知してもらうための文脈づくり、知覚価値が必要と訴えました。

 

ここでおさらい。コトラー氏がけん引してきたマーケティングの基本、STPは市場の細分化(セグメンテーション)、狙いの選定(ターゲティング)、立ち位置の明確化(ポジショニング)に始まります。

 

4Pは、製品(プロダクト)、価格(プライス)、流通(プレイス)、販促(プロモーション)です。これにコトラー氏は80年代、広報(パブリックリレーションズ)、権力(パワー)の2Pを加えたメガマーケティング理論(参考)を提唱しています。

 

川上氏はこうした要素を総括し、「新しいイノベーションを生み、普及させる段階において”価値”と”文脈”を同時に作るのが、マーケティングの役割企業が消費者やクライアントの行動変容を促し、生まれるダイナミズムを次の文脈につなげるのが道筋」と強調。電子書籍リーダーの普及において必要な、規制緩和にまでも展開できるマーケティングの有効性を強調しました。

MAINモデルはマーケティング上位

以上を踏まえ、組織でマーケティングを実現するのに必要なプロセスモデルとして、マーケティング(MA)とイノベーション(IN)の頭文字から命名したMAINモデルを紹介。その上位にマーケティングがあり、下位にテクノロジーの研究開発があります。

 

これとあわせて、マーケティングをCMO(チーフマーケティングオフィサー)が統括し、会社全体をCEO(経営最高責任者)が見るプロセスモデルと、マーケティングドリブンな取り組みが必要です。

 

これについて川上氏は、日本はモノづくり指向が強く、上下が逆転しがち」「技術ありき、が電子書籍リーダーの失敗につながっていると指摘。IoT製品を筆頭に、市場に導入した後の消費者の動きを見る重要が高まる中、商品化後のSTP再定義が不可欠、と断言。

 

経営学で名高い故ピーター・ドラッカーが、「企業の存在意義は顧客の創造」と述べた通り、商品を市場に送り出した後も顧客創造は続くと述べました。

続いて、 消費の質を変える 非破壊的イノベーションを紹介しました。その事例と取り組みについて、次回取り上げます。

――

基調講演(ノースウェスタン大学 ケロッグ経営大学院教授、フィリップ・コトラー氏)
講演(富士フイルムホールディングス代表取締役会長兼CEO 古森 重隆氏、ネスレ日本代表取締役社長兼CEO 高岡 浩三氏)
パネルディスカッション(フィリップ・コトラー氏、高岡 浩三氏、モデレーター:IMD北東アジア代表 高津 尚志氏)

<ランチ休憩>

<午後プログラムレビュー>

講演(カリフォルニア大学ロサンゼルス校ビジネススクール教授 ドミニク・ハンセンズ氏)
パネリスト登壇(ワールドマーケティングサミットグループCEO サディア・キブリア氏)
パネリスト登壇(ネスレ日本株式会社 執行役員コーポレートアフェアーズ統括部長 嘉納未來氏)
パネルディスカッション 「CSV経営とマーケティング」(ドミニク・ハンセンズ氏、サディア・キブリア氏、嘉納未來氏、モデレーター:グロービス経営大学院教授 加治慶光氏)
講演(カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院 名誉教授 デービッド・アーカー氏)

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